箱庭の事例
箱庭の事例
箱庭を活用している先生から、直接伺った事例を掲載しています。
※掲載されている箱庭の画像は、実際のケースの写真を基に再構成したものです。
※掲載されている箱庭の画像は、実際のケースの写真を基に再構成したものです。
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●「かわいいお家とキラキラ」
~箱庭を作ったことで生まれる気づき~
人物像
娘の付き添いで小児科に通院している母親。娘の登校しぶりの相談だが、本人には話させず、母親が主体で話をしている。
娘の付き添いで小児科に通院している母親。娘の登校しぶりの相談だが、本人には話させず、母親が主体で話をしている。
作品作り
「自分の家はしっかり柵でガードしなくちゃ!」「キラキラした道を通らないと家へは行けない」「お気に入りはハリネズミ。可愛い!」などと勢いよく話をしながら作品を作っていたが、ふと「私って幼くないですか?」「未だにキラキラとか好きだし、甘えたいし…」とポツリと話す。
甘えたい時はどうしているのか尋ねると「パパに甘えてます」と言い、時には娘といっしょに甘えることもあるという。そこで「パパが癒しになってるんだな…」とつぶやいた。
箱庭作り その後
娘の学校での対応方法など、これまでは母親主導で決めてきたが、「パパとも相談しながら方向性を考えてみます」と母子で決めて、その日の相談を終了した。
●「子どもの頃の風景」
~箱庭作りを通して会話のきっかけに~
人物像
介護施設に入所している上品な高齢の男性。施設内でほとんど話さず、周りとのコミュニケーションが取れない(取らない)。
介護施設に入所している上品な高齢の男性。施設内でほとんど話さず、周りとのコミュニケーションが取れない(取らない)。
作品作り
数台の砂箱を置き、ひとり1台を使って『箱庭を作る会』を催した際の参加者。周りの人たちが箱庭を作り始めても、その男性はなかなか手を出さなかったが、見守り役が促すと少しずつ作り始めた。
子どものころの風景を作っていたようで、「子どものころ遊んだ神社の境内、井戸もあったかな…」「あまり外では遊ばなかったけど」「家の中で本を読むことが多かったよ、読書が好きだった」と、子どもの頃の話で会話が弾んだ。
箱庭作り その後
男性は自分から話すことはなかったらしく、その場にいた職員達が驚いていた。職員の一人が、男性の話を聞いて彼の経歴を思い出し、「大学の先生やってたのよね」と言うと「うん」と、問いかけに対しても嬉しそうに返事をしてくれた。
●「ママと行った公園」
~箱庭作りの回数を重ねることで表現される心の変化~
人物像
場面かん黙と母子分離不安があり通院中。初回面談時は母親から離れずに入室。学校へは通っているが1時間ほどの別室登校で、母親が送迎している。
場面かん黙と母子分離不安があり通院中。初回面談時は母親から離れずに入室。学校へは通っているが1時間ほどの別室登校で、母親が送迎している。
作品作り
全4回の作品作り(写真は最終回の作品)。1回目から全回通して公園の風景を作った。
1回目、2回目ともに何もない空間を広く開けて、よく似た風景を作っており、人物が登場しない。意思の疎通はうなずきか、か細い声での応答だった。3回目の箱庭には人物が登場している。このころには本人も母親べったりでなくなり、話をすることも増えてきた。
最終回は空間を大きく使い、彩りもにぎやかな作品を作ることができた。笑顔も増え、言葉数も多くなった。
箱庭作り その後
学校にいる時間を、目標を決めて増やすことができるようになり、母親と離れることにも抵抗が少なくなってきた。
●「わたしのおうち」
~箱庭に現れる子どもの家庭環境~
人物像
日常的に情緒不安定。緊張感が強く、人の顔色をうかがう子どもなので、保育士が箱庭で遊ばせることにした。
日常的に情緒不安定。緊張感が強く、人の顔色をうかがう子どもなので、保育士が箱庭で遊ばせることにした。
作品作り
何度か箱庭で遊んでいるうちに慣れてきて、用具を使って風景を作るようになった。この作品はその中の一つ。
壁に囲まれた右下は「ママと私のおうち」で、私のおうちの外に「パパのおうち」がある。私のお家の中にいる大人の男性は「知らないおじさん」。このおじさんは、家に時々遊びに来るそうだ。左下は、ペンギンを怖い動物が囲んでいじめているところ。
壁に囲まれた右下は「ママと私のおうち」で、私のおうちの外に「パパのおうち」がある。私のお家の中にいる大人の男性は「知らないおじさん」。このおじさんは、家に時々遊びに来るそうだ。左下は、ペンギンを怖い動物が囲んでいじめているところ。
箱庭作り その後
就学前の子どもは、言葉で表現することは未熟だが、箱庭では保育士も驚くほどの具体的な表現をすることがある。
今回の箱庭で彼女の気持ちの状態と家庭環境が把握できたので、箱庭作りを続けるとともに、母親に対する子育て支援に役立てることにした。
●暴力や暴言を吐く女児のケース
場所:児童相談所
年令:小学校低学年
年令:小学校低学年
・この女児は、乳児のころから親からの虐待を受けていた。生後3か月の時にビルの高層階のベランダから落とされ、命は助かったが、事件の直後から児童相談所に入所、今日に至る。
・周りの人たちに乱暴で、暴力や暴言を吐くなどの困った行動が多かったため、心理士が付いて箱庭を始めるようになった。
箱庭では、初回から、砂箱の中に「高いビルを置き、その上から自分に見立てた人形を落とす」という動きを見せた。(心理士も養護の指導員も、その子がビルから落とされた話はしていないので、女児は知らない。)
定期的に箱庭を作ることにしたが、毎回テーマは同じで、高い所から自分に見立てた人形を落とすことを繰り返し行った。しかし、回数を重ねるごとに、建物の高さが低くなっていった。
数回のセッションの後、ビルを置くことを止め、いつもの場所には滑り台を置いた。自分の人形も、落とすのではなく、滑り台を滑るという行為に変わった。
その後、周囲の人との関係も暴力を介すのではなく、うまく自己表現をしながら付き合うことができるようになっていた。
定期的に箱庭を作ることにしたが、毎回テーマは同じで、高い所から自分に見立てた人形を落とすことを繰り返し行った。しかし、回数を重ねるごとに、建物の高さが低くなっていった。
数回のセッションの後、ビルを置くことを止め、いつもの場所には滑り台を置いた。自分の人形も、落とすのではなく、滑り台を滑るという行為に変わった。
その後、周囲の人との関係も暴力を介すのではなく、うまく自己表現をしながら付き合うことができるようになっていた。
考察
このケースは乳児期の事件がテーマになっているが、事件について本人が記憶しているわけではなく、また、周囲の誰も本人に話したことがない。しかし作品を見る限り、無意識下にはその記憶が残っており、大きなトラウマになっていると思われた。
トラウマとなった出来事を、箱庭の中で繰り返し再現することで、癒されていったと考えることができる。
このケースは乳児期の事件がテーマになっているが、事件について本人が記憶しているわけではなく、また、周囲の誰も本人に話したことがない。しかし作品を見る限り、無意識下にはその記憶が残っており、大きなトラウマになっていると思われた。
トラウマとなった出来事を、箱庭の中で繰り返し再現することで、癒されていったと考えることができる。
●不登校の男子生徒のケース
場所:不登校支援センター
年令:高校2年生
・高校に入ってから、すぐ不登校になった。理由は不明。
・不登校支援センターに通うようになり、指導員と箱庭を作ることになった。
この男子生徒は、初回から豊かな風景を作ることができたが、『人』を置いていなかった。また、砂箱の右上隅っこに『お城』を置いており、お城に続く道がある面を砂箱の側面にくっつけて、周りには湖を作っていた。
※『お城』の造形は、建物だけではなく、山の上に立っていて、それも含めてひとつの造形物になっている。(写真参照)また、お城には表裏があり、表面は純粋に山の上に建つお城の風景、裏側にはお城に続く道が作られている。
彼は感受性が豊かで、その後のセッションでも様々な美しい風景を作っていた。しかし、お城は毎回必ず同じように置いてあり、相変わらず湖がお城を囲っていた。人がいないというのも、毎回の共通点だった。
数回のセッションを続けた後のある日、お城をひっくり返して道のある面を表側に向けた。その前には湖を作らず、道を作って自転車を置いた。
その作品を作ってからしばらく後、男子生徒は学校に通うようになった。
考察
砂箱の右上は将来の展望などを表すことが多い。右上に置かれたお城は、行く手を阻むものでもあるが、外界から自分自身の豊かな感性を守るものでもある。箱庭には人を置かなかったが、彼自身はお城の中におり、様子見をしながら、守られた中で自分の感性の赴くままに作品を作っていたのだろう。
今後、彼はお城から出てきて自転車に乗り、自分自身の内面の旅をしながら、彼に合った道を探し始めると思われる。